クリエイター
2024.03.09
ネーム作家が教える基本の”ほ”〜ネーム制作の3大要素〜
2度目の寄稿をさせていただきます、Webtoonネーム作家の小滝ろみです!
前回の記事ではclip studioの使い方やコマの配置等、ネームの具体的な書き方に関することをご紹介しました。
今回はもう1段階進み、「プロットをネームにするにはどうしたら良いの?」という内容について書かせていただきます。
作家さんによってやり方が異なる部分だと思うので、あくまでも小滝の場合・かつソラジマでの場合、ということでご参考いただければと思います。
前回の記事では、ネーム楽しいよ!みんなやろう!ということをメインに書かせていただきました。
しかし、ネームという立ち位置でwebtoon作成に関わりたいと考えている方には、必ず知っておいてほしいことがあります。
それは、
ネームは直しが多い
ということです…!
物語の基本を作る企画・原案の方々にも直しはつきものかと思いますが、ネームはその練り上げられた企画を漫画の形に仕上げる最初の段階です。
基本的にはネームにそのまま絵が入って完成するので、
ネームの時点で「読めるもの」として成立していなければいけません。
「意味が伝わること」「面白さが伝わること」がとっても大事なんです。
「ちゃんと意味が伝わる?」「本当に面白い?」ということは、自分一人ではなかなか判断できません。
なので、編集者さんなど第三者の客観的な目線からの確認が必須なのです。
そして、文章から受けた抽象的なイメージを、漫画という別の形に具体化するのですから、どうしてもギャップはつきものです。
細かな修正を含めたら、一発で通ることは有り得ないと思ってください。1度や2度の直しで済めば少ない方です。
面白い表現を作るため色々と意見を出し合えるのも、作品作りの楽しさの一つなので、
指摘がかさんでも「怒られている」「困らせている」のではなく「一緒に楽しんでいる」と捉えると良いかなと思います。
しかし、ネームの直しの回数が増えると、後の工程を担当される方々のスケジュールが押されます。
そのプレッシャーに耐えながら(無視しながら?)の作業になるので、精神力は必要不可欠です。
いきなり脅しのような文章から入って申し訳ないのですが、
私はこれがよく分かっていない状態でネームに携わり、最初の頃は度重なる直しによるプレッシャーを抱えてしまったので、
これからこの仕事を始めようとしている皆さんには、携わる前にぜひ押さえておいてほしいポイントなのです。
直しが多かったとしても気にしすぎず、締め切りは守りつつ、気楽に捉えるのがベストです(難しい)。
しかし、今回の記事を参考にしてもらえれば、直しの回数を減らせる可能性があります。
この仕事を始めた当初は月に3〜4本を通すのが精一杯だった私ですが、
以下でご紹介する内容に気をつけるようになってから、月に10〜12本ほどのネームを納品することができるようになりました。
また、回数を減らすことができなかったとしても、直しのストレスを減らせることは確実です。
先に結論を書いてしまうと「理由を説明できるようにする」なのですが、
理由?何のために?どうやって?という部分について書いていきますね。
ではさっそくプロットをネームにしていきましょう!
ポイントはこの3つです。
1:削る
皆さんは「ログライン」という言葉をご存知でしょうか?
単純に言えば、ストーリーの内容を1行にまとめたもの…ですが、あらすじとは違います。
一言で言うと、ログラインは「ストーリーの面白さが伝わる1行」です。
私はこの仕事で初めてログラインという考え方を教えていただき、どうやって見つければいいのか相当悩みました。
あらすじとログラインの違いは、各所で紹介されている模範解答を見れば納得するんですが、自分で見つけようとすると全然分からなかったのです。
正直今でも完全に理解できているとは言えません。調べれば調べるほど奥が深いと思います。
ログラインを考える際には、やっぱり「面白さが伝わる」というのが重要です。
面白さについては色々な考え方がありますが、
私は「私が面白いと思える」というのを最重要視してログラインというか、お話の見せ場を考えるようにしました。
たとえばデスノートのログラインなら、「名前を書かれると相手が死ぬノートを拾ってしまった不幸な少年の物語」と考えます。
この「不幸な少年」には賛否両論あると思いますが、何故こう考えたかを説明します。
デスノートとは、天才高校生である夜神月くんが、名前を書かれると死ぬノート「デスノート」を拾い、
これを使って世の悪人を裁き、新世界の神になろうと奮闘するお話です。
作中で月くんはよく笑い、自信満々に振る舞い、頭脳を活かして大活躍します。
なので月くんを「悪のカリスマ」「天才」と捉えることもできますし、月くんに敵対する警察の視点から「大量殺人鬼」と捉えることもできます。
私も最初の方はそういう視点で読んでいたのですが、月くんの父親である夜神総一郎が「この能力を持ってしまった人間は不幸だ」と評するシーンを見た時、ものすごい衝撃を受けました。
今まで面白おかしく見守っていた悪の天才少年は、確かに「不幸」だ!!と気づいた瞬間、まるで叙述トリックの種明かしをされたような驚きがあったんです。
慌ててそれまでのデスノートを見返すと、いままで読んでいた物語がまるで違うものに思えました。
月くんが不幸に陥っていく様子が痛々しくて、とても面白おかしく見守れるものではなくなってしまったのです。
父から不幸と評された後、月くんはリュークに向かって「僕は幸せだ」と言いますが、リュークはその発言をやんわりと否定します。これがまた痛々しいんですよね…
月くんが自分のことを幸せだと思っている事実があまりにも気の毒で、デスノートで一番泣けたのがこのシーンでした(他にも泣いたシーンはありますが)。
話が脱線しましたが、そういうわけで、私にとっての面白さは「心を動かされた部分」です。
これを基準にしているので、たとえばデスノートのログラインについて「なんでこの内容にしたんですか?」と質問されたとしたら、上記のエピソードを根拠として語ります。
この基準で決めるログラインに、正解・不正解はありません。私とは全く違う部分で心を動かされた人ならば、全く違うログラインになるでしょう。
ただ、「自分で本当に面白いと思えていること」が重要だと思います。
最初の頃ログラインを捉えにくかったのは「面白さ」を「面白いと思ってもらえそうな部分」「受けそうな部分」だと思っていたからでした。
仮に「受けそう」という基準で面白さを決めたなら、その面白さは受け手によって決まるものになります。
「なんでこれが面白いと思ったの?」と聞かれてしまった時点で、目の前の人に面白いと思ってもらえていないので、なぜ面白いのか?の根拠がなくなってしまうのです。
「受けそう」という理由でログラインを決めるなら、根拠となるデータを収集・分析することになるでしょう。
私は分析が苦手なので向いていませんでしたが、そのやり方が向いている人ならもちろんアリだと思います。
どんなルートであれ、何が面白いのかを聞かれた時に答えられるように、面白さの根拠を言語化しておくのが非常に大事です。
必ずしもまとまった一文にはならなくても、「この話の見せ場はここ!」「このキャラの魅力はこれ!」と説明できるようにしておくと良いです。
これの練習?のため、私は読んだり見たりした作品のタイトルを書き出しておき、面白かった部分・気になった部分・好きなキャラの名前など、
印象に残ったものを1行でいいからメモしています。何が面白いのかを見つけるためです。
もともとは趣味でやっていたことなのですが、ネームを書くようになってからは、仕事でも役に立ちそうなことだなーと思いながら続けています。
前置きが長くなりましたが、お話を考えるわけではないネーム担当がなぜログラインについて考えるのか?というと、
「削る」作業と密接に関わるからです。
文章と漫画では面白いポイントが微妙に違うため、原案者さんが書いてくださった脚本をそのままwebtoonにしようとすると、全てを盛り込みきれないことがほとんどです。
単純に長くなりすぎてしまう場合もあれば、
文章では問題ないのに、全て盛り込むと冗長に感じられてしまう場合(台詞のかけあい・長台詞など)もあります。
そこでセリフやシーンなどの要素を削らなければいけないのですが、
基準が「物語上必要な要素」だけだと味気ない。
実際、「ストーリーを説明しているだけだ」という理由で直しになったことが何度もあります。
だからログラインがポイントになるのです。
「このお話の面白いポイントはどこだろう?」
「見せ場はどこだろう?」
「なんで面白いんだろう?」
ということを意識しながら削っていくと、
プロットを読んだ時に感じた面白さを損なわずにネームを作成することができます。
また、より面白くなるように、プロットの順序を組み替えてネームを作ることもたびたびあります。
時には、物語上必要そうな要素でさえ削る必要が出てくる場合もあるでしょう。
その場合は原案者や編集者との意見のすり合わせが必要になりますが、上記のログラインの考え方があれば「なぜ削ったか」を相手に説明できます。
理由を伝えた上で自分の意見が通ることもあれば通らないこともありますが、「言われるがままに直す」よりも建設的な話し合いができるはずです。
ネーム作業の80%くらいは「削る」に集約されるといって過言ではありません。
2:足す
削ったのに足すのかよ、とお思いかもしれませんが、これも大事な要素です。
上記のログラインの考え方をもとに、面白い部分を補強・解説する工程です。
文章で読んでいれば流れでわかるけど、漫画にしてみると唐突に感じてしまうシーンなどで必要になる作業です。
今のところ私は恋愛漫画にしか携わったことがないのですが、やはり恋愛では心情描写(モノローグ)で「足す」作業をすることが多いです。
ヒロインの気持ちがプラスやマイナスに揺れ動くシーンを、モノローグや仕草、光の加減や風向きなどでドラマチックに演出するのです。
また、キャラの位置関係や光源を利用してキャラ同士の関係性を表したり、
そのキャラを表すモチーフを決めて取り入れてみたり…など、
脚本では文脈で表されている要素を映像化するために「足す」ものもあります。
そうすると、いわゆる「無駄ゴマ」がなくなってきます。
理由のあるコマが増えてくると、全体的な長さもコンパクトにできますし、言語ではない部分の読み応えも出すことができます。
「曇り空や夜空ではなく、あえて青空である理由」
「キャラが口元に手を当てている理由」
「キャラの立ち位置、距離感の理由」などなど…
全部のコマに理由を決めるまではいかなくとも、
意図のある演出を含んだコマを意識して取り入れると、プロットの内容を無理なくネームにすることができます。
この「足す」作業は、ネーム作業全体の15%くらいです。
3:めげない
見つけたログラインを元に「削る」「足す」ができれば、作業のスピードも上がりますし、直しの回数も減らすことができますが、
極め付けに重要なのは「めげない」心です。全体でいったら5%くらいですが、これが無いとやる気にムラが出てしまいます。というか、連載ができません。
ログラインを知ったのは編集者さんに存在を教えていただいたことがきっかけですが、頭痛がするくらい自分で考えるようになったのは、度重なる直しの中で、「とりあえずここを直して!」「一度直したけど、やっぱり元に戻して!」と言われるような、着地点を見失う事件が起きたからです。
指摘された部分を言われるがままに直していたとき、ふと
「直しになる部分には必ず理由がある」
「自分もネームの理由を説明できるようにすれば、やりとりを効率化できるんじゃないか?」
「これにログラインが使えるのでは?」
と気づいたのです。
しかし、気づいてすぐ劇的に変わったわけではありません。
どこが面白いのか言語化できない時もあるし、
自分では面白いと思ったのに、相手には全然伝わらないこともあるし、
良かれと思ってやったことがストーリーの辻褄に影響してしまい、修正作業が出ることもあるし、本当に色々なことがあります。
しかし、これらの気づきを得ながらもめげずに学んでいられたのは、何度直しになってもめげない心があったからでした。
そしてめげない心を保っていられたのは、私の心が強かったからではありません(むしろメンタルは弱い方です)。
何度直しになっても丁寧に支えてくださる編集者さんがいたからです。
ソラジマの皆様は本当に優しくて対応が迅速です。わからないことがあったら一緒に考えてくださるし、弱っている時には親身になって励ましてくれます。
また、こちらからの意見も毎回丁寧に受け止めて一緒に考えてくださいました。立場や年齢の上下に関係なく意見を受け入れていただける環境は、安心して働ける理由になっています。
この優しさと安心感が無ければ、私は孤独に挫けていたことでしょう。
仕事を選ぶ時には色々な条件がありますが、やはり環境も大事です。
温かい環境があったからこそ、私は今もネーム制作を安心して続けられているのだと思います。
おわりに
色々なことを書いてきましたが、
やっぱりネームは楽しい作業です!
いただいた構成を元に漫画の基礎を作り、作画が加わって完成していく様子には、いつも本当に感動します。
色々な人が関わってひとつの作品が作られていく様子を何十回と見届けてきて、ネームが貢献できる部分は「漫画としての面白さ」だと私は思うようになりました。
物語としての面白さは原案や構成にありますし、作画の方によって作品の解像度が決まりますし、仕上げの方の演出力も重要です。作品全体の魅力は全行程の方によって支えられているといえるでしょう。
そんな中で、漫画として面白くするために必要なものを考えて、見つけて、どんどん取り入れていくのがネームです。
どうやったらこのお話はもっと面白くなるかな?と好奇心を持って考えるのが楽しい人なら、ネーム作業もきっと楽しめるはずです。
ネームは作画の方々ほど画力を問われませんし、原案の方々のように0から1を生み出す作業でもありませんが、
実際にちゃんとやろうとすると、おそらく見た目より大変です。
けれど漫画が好き、漫画について考えるのが好き!という方であれば、とても楽しく取り組める作業だと思います。
もともと私は絵が苦手だけど漫画を描くのが好きというタイプでした。
キャラクターをイチから考えることも苦手だったので、人からもらったアイデアをラクガキのような漫画にして、「ネームだけ描ける仕事があればいいのにな〜」とよく言っていたのです。
「そんな夢みたいな仕事あるわけないだろ」と笑われていたのですが、令和の世に入ってついに私の求めていた仕事が出現しました。
こんな夢みたいな仕事があっていいのか?と定期的に思っています。
ネーム作家という仕事に出会わせてくれたソラジマさんには感謝しきりです。
絵も描けないし話も思いつかないけどネームがひたすら好き!という人間が、こんな形で漫画に関わることになるとは、ほんの1年前までは想像もつきませんでした。
絵が苦手、話を作るのも苦手、でも漫画が好きというもどかしい状態にある、かつての私のような方にこそ、ぜひチャレンジしてみてほしいです。
執筆者:小滝ろみ
小滝ろみです。ネームを書くのが好き!絵を描くのも少し好き!文章書くのはやや好き!です。よろしくお願いします。
https://html.co.jp/otakiromi
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